心臓の病気として多くの人が患う「心筋梗塞」の検査やカテーテル治療について説明いたします。
私は10年以上循環器専門医として診療を行なっています。
資格としては、
「循環器専門医」:心臓全般の専門的知識を有する医師
「心血管インターベンション治療学会専門医」:心臓や血管のカテーテル治療を専門的に行える医師
などの心臓や血管の病気を治療するエキスパートとしても働いております。
インターネットには「心筋梗塞」に関する数多くのホームページがありますが、私の経験から患者さんが疑問に思う点などを踏まえながら、患者さん目線に立って説明していきたいと思います。
👇心筋梗塞のまとめを記載した記事です。これを読めば心筋梗塞についてはおおまかにご理解いただけると思います。ぜひ参考ください。
👇心筋梗塞に似たような病気で「狭心症」がありますが、以前の記事で説明していますので参照ください
病院へは救急車で来てください
心筋梗塞を疑うような症状が出現し、救急車を呼び病院に搬送された場合を想定しています。
多くの患者さんは耐え難い胸痛や苦しさを感じ、ご自身あるいはその周囲の人が救急車を呼ぶ場合が多いです。
また、我慢してご自身で開業医を受診し、開業医から紹介になることがあります。この場合も開業医は救急車を呼び治療可能な病院へ搬送されます。
「自分で行けます」という患者さんもいますが、心筋梗塞では、意識消失や心停止、不整脈など何がいつ起こるかわからないので自分で病院に行くことは危険です。
救急室での検査
急性心筋梗塞は、狭心症と違ってカテーテル治療が第一優先となります。
さらに、救急車を呼んでから、できるだけ早く、具体的には90分以内に閉塞した冠動脈(心臓の動脈)の血流を戻す必要があります。
冠動脈が閉塞し、6時間以上が経過すると血流が途絶えた心臓の筋肉細胞は死滅し腐ってしまうからできるだけ早く血流をもどしてあげないといけません。
治療まで悩んでいる時間はありません。
検査もそのため超特急で行います。
必要な検査は、採血、心電図検査、胸部レントゲン写真、心臓超音波検査(エコー)は必須です。
上記の検査でほぼ心筋梗塞か違う病気か判断可能です。
しかし、中には心筋梗塞か他の病気か判断がつきにくい場合も存在します。
判断が難しい場合に想定する病気は、
・大動脈解離:心臓の血管が裂ける病気。心筋梗塞と並んで致命的な病気の一つ。
・肺血栓塞栓症:心臓ではなく肺動脈が血栓でつまってしまう病気。これも致命的な病気の一つ。
・たこつぼ心筋症:ショックな出来事で過剰なストレスがかかることによって起こる心臓の病気。
・冠攣縮性狭心症:冠動脈が痙攣することで閉塞してしまう病気。
その場合は、追加でCT検査、必要に応じて心臓CT検査を行います。
それでも判断がつかないケースは心臓カテーテル検査を行う必要があります。
数々の検査を同時にこなしていきますので、大人数で対応します。
大体の心筋梗塞は心電図で判断可能ですので、最短で来て数分で緊急カテーテル治療が必要かどうかわかります。
救急室でカテーテル治療の準備
カテーテル治療が必要と判断されれば、その準備がすぐさま行われます。
・膀胱カテーテル留置:手術後安静にする必要があるため、尿道から膀胱まで自然に排尿できるようにカテーテル(管)を留置します。
・点滴:点滴でお薬を投与します。
・鼠径部の剃毛(ていもう):陰部の毛を剃ります。鼠径部からカテーテルを挿入することもあるからです。
・酸素投与:血液中の酸素濃度が低下していれば酸素を投与します。
・抗血栓薬の内服:心筋梗塞で間違いない!という場合は、抗血栓薬を2種類内服することになります。
同意書
担当医師から心筋梗塞でカテーテル検査および治療の必要性、危険性などの説明を受け、同意書にサインが必要となります。できれば、ご家族のサインも必要なので、心筋梗塞で病院を受診する際は家族と同伴が望ましいです。来れない場合でも、電話で同意を得る場合もあるので電話はすぐに出れる状態にしといてください。
膀胱カテーテル留置
手術中や後に安静が必要なため、尿道から膀胱まで自然に排尿できるようにカテーテル(管)を留置します。
これが非常に苦痛を感じられる患者さんが少なくないです。
ただカテーテル治療中や治療後しばらくの間は「絶対安静」ですので、膀胱カテーテル留置が必要となります。
鼠径部の剃毛(ていもう)
陰部の毛を剃ります。鼠径部からカテーテルを挿入することもあるからです。
抗血栓薬の内服
心筋梗塞で間違いない!という場合は、抗血栓薬を2種類内服することになります。
バイアスピリンおよびエフィエントあるいはプラビックス(クロピドグレル)の2種類が必要です。
バイアスピリンは噛んで内服してもらうことになります。
しかし、心筋梗塞でもカテーテル治療ではなくバイパス手術などの外科手術が必要となることが稀にあります。その場合、抗血栓薬を飲んでいると出血が止まらなくなるケースも想定されますので、カテーテル治療が始まる直前まで内服を待機することもあります。
カテーテル治療室へ
到着してから検査終了しカテーテル治療室まで30分以内を目指したいです。
治療室へはストレッチャーと呼ばれる動くベッドで搬送されます。
ベッドで搬送され、カテーテル室のベッドへ移動し治療が始まります。
治療は「狭心症」のときと同じです。
多くの場合、局所麻酔で行いますので、患者さんは意識があります。我々医療者が会話しているのが聞こえます。場合によっては、緊迫感が伝わるかもしれません。
カテーテル検査および治療の実際
カテーテルとは、細長いホースのような管のことをいいます。直径2-3mm程度の細い管を動脈に挿入しカテーテルを心臓まで進めます。
言葉で説明するよりTERUMO社のYoutubeが非常にわかりやすいですので、百聞は一見にしかずでご覧ください。
カテーテル検査では、造影剤という特殊な薬剤を使って心臓の血管を描出します。カテーテルを心臓の血管(冠動脈)の入り口に挿入し、造影剤を注入すると下の図のように心臓の血管が描出されどこが悪いのか判明します。
実例
実際の動画です。赤矢印の部分に狭窄を認めます。ここが原因で血の流れが妨げられ症状が出ています。
狭窄部位にステントを置いた後の造影検査の様子です。前の動画で細かった部分がステントによって押し広げられ綺麗に修復されています。1〜2時間程度で終わります。
治療の最終形としては、上記のようにステントと呼ばれる金属を留置する場合が多いです。ただ、最近ではステントを留置せずに特殊なバルーン(風船)で広げるだけで終了する場合、ロータブレータと呼ばれるドリルで削る場合などステントを留置せずに終了する場合もあります。どのような治療法がいいのか、検査や治療をしながら判断するので、多くの場合、手術中にさまざまな方針が決定されます。
ステントのサイズや長さなども、検査や治療中に精密な機器を用いて測定するので実際にやってみながら計測し判断していくことになります。
検査および治療後
検査や治療に使用したカテーテルは処置後に速やかに抜去することが多いです。
術後も、狭心症とは違って、心筋梗塞はさまざまなよくないことが起こりうります。
突然死、不整脈、心破裂、心不全などどれも起こると致命的になりうるので、すぐに対処ができるようにCCUとかICUとか呼ばれる集中治療室で過ごしていただきます。
カテーテル治療後から退院までについては、次で説明します。
最後までお読みいただきありがとうございました。
少しでもお役に立てれば幸いです。
👇つぎはカテーテル治療後から退院までの流れについてです。ぜひ参考にしてください。
<参考文献>
⭐️循環器学会:急性冠症候群ガイドライン(2018 年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_kimura.pdf
⭐️循環器学会:虚血性心疾患の一次予防ガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2012_shimamoto_h.pdf
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