循環器専門医(心臓専門医)がわかりやすく説明します。
今後、「パンデミック」と呼ばれるほど心不全を患う患者さんの増加が予想されています。ご自身、ご家族やご友人が患った場合や何らかの心臓の病気になった場合に参考になりますよう説明したいと思います。
心不全
循環器内科でもっとも扱うことが大きい病気です。厳密には病気ではなく状態なのですが、一般的に病気と捉えてもらってもいいです。
一般向けの定義は、日本循環器学会のホームページに記載されております。
<心不全の定義>
『心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。』と一般の方向けに循環器学会のHPでお知らせされています。
https://www.j-circ.or.jp/five_year/teigi_qa.pdf
ぴんときませんよね?
つまりは、「体の隅々まで血を送り出す心臓が、原因がなんであれ、十分に血を送り出せなくなることによって起こりうる非常に良くない状態のこと」です。
最終的に心臓の病気は心不全に至ることが多いです。例えば、心筋梗塞になって、最終的に心不全で亡くなるとか…
心不全の原因
では、なぜ心不全になるのか?ですが、原因はさまざまです。
① 血圧が高くなる病気(高血圧)
② 心臓の筋肉自体の病気 (心筋症)
③ 心臓を養っている血管の病気 (心筋梗塞) (十分に心臓を養えていないために起こる)
④ 心臓の中には血液の流れを正常に保つ弁があるが、その弁が狭くなったり、 きっちり閉まらなくなったりする病気(弁膜症)
⑤ 脈が乱れる病気 (不整脈)
これらの病気のために、心臓の血液を送り出す機能が悪くなっているためにおこります。
まぁ、一般の人にはピンとこないですよね笑
患者さんにとって大事なのは、「急性」か「慢性」かということになると思います。
急性心不全とは?
「急性」とは、字の如く、突然、心不全を発症する…ということになります💔
実際、ついさっきまで普通にしゃべっていた人が、急に心不全を発症するなんてことも珍しくはないです。
では、どういう症状なのか?
急性の場合は、「呼吸困難」が真っ先に症状として起こります。
心不全で運ばれてくる患者さんは、顔面蒼白(チアノーゼ)、呼吸促迫(息ができない)、冷汗(冷や汗をだらだら)な状態で「たすけてくれー、くるしいー」と息も絶え絶えで訴えます。
なぜ、そうなるのか?
血液の循環を司る心臓が破綻する心不全になると、水分のバランスをうまく保てなくなります。血液は、大部分が水でできていますから、心臓が悪くなると水分の循環に支障をきたすわけです。水分の循環に異常をきたすと、水分が行き場を失い、どこかで溢れてしまう状態になります。どこかと言いますと、「肺」で水分が溢れてしまうんです。肺はスポンジみたいな組織ですから、そこに水分が溢れ出て肺を満たし、肺水腫(はいすいしゅ)と呼ばれる溺れた状態と同じような結果に陥ります。これが「急性心不全」です。
それが急激に起こります。いきなり溺れた状態になるわけです。そりゃ苦しいですよね。
急性心不全の治療とは?
治療としては、NPPVとよばれる特殊なマスクを装着したり、利尿剤とか血管拡張薬と呼ばれる注射薬を投与することになります。大体の患者さんが、おしっこに行くのもしんどかったり、水分の量を厳密に管理するためにおしっこを自動的に排出する「膀胱カテーテル」と呼ばれる管を尿道に挿入されることになります。
あまりに呼吸状態が悪ければ、挿管といって大人の人差し指くらいの太さの管を口から入れて強制的に換気を行う必要があります。よく医療系ドラマでやってますよね。あれです。口から喉を通って気管に管を入れるので、相当苦しいです。ただ、不快感を取り除くために、お薬を使って意識を飛ばします。そうでなければ、不快感で勝手に抜いてしまいますから。
究極に悪い場合、つまり、心臓が止まりそう!あるいは止まりかけてる!っていう場合は、PCPSとかECMO(エクモ)とか呼ばれる人工心肺という装置を装着することになります。コロナの治療でもECMOって頻繁に報道されてましたよね。あれです。
ただ、ECMOって可愛い呼び方とは裏腹に非常に大変な装置です。心臓が悪いときに使うECMOは主には、足の付け根から親指くらいの太さの管を2本動脈と静脈に挿入して、静脈側の管から血を抜いて、人工肺と呼ばれる血をきれいにする装置を通してから動脈側の管からきれいになった血を送り出す装置となります。
よくわからないとおもいますが、とにかく「えぐい」です。患者さんの負担も相当です。心臓を助けるために必要なのですが、管の挿入口から菌が入って感染したり、多量の出血したり…管理する医療者も非常に大変です。ほぼ看護師と医師が付きっきりになります。
コロナで「ECMOが必要な患者の数は…」とさらりと報道されていますが、その労力たるや非常に大きいものとなっています。
とにかく、「急性」心不全は一分一秒を争う状態で、非常に重篤です。
もし万が一、ご家族、特に、高血圧、糖尿病、喫煙歴があるご家族が突然の呼吸苦を訴えたら、迷わず救急車を呼んでください。呼吸苦とは、具体的には、「顔面蒼白」「冷や汗」を伴う「息苦しさ」です。
慢性心不全とは?
「慢性」心不全とは、急性とは異なり、ゆっくりと時間をかけて心不全に陥ることを言います。多くのケースで、気づかない場合があります。「歳のせいかな?」という感じで見過ごされがちです。
症状は、「呼吸苦」、特に労作時、つまり、動いたときの息切れです。他には、むくみ、特に、下腿のむくみが目立ちます。また、倦怠感、疲れやすいなどなどです。
慢性心不全を発症しているのに、「歳のせいかな?」と病院へ行かず様子を見ていたら、一気に破綻して、「急性心不全」となって救急車で搬送ということもよくあります。
治療としては、心不全の原因となっている疾患の治療が主になります。すなわち、高血圧であったり、狭心症であったり、不整脈であったり、その原因に応じて治療方法が異なります。これら個別の原因に関しては、あらためてまとめていければなと思っています。
慢性心不全は仕方ない(治らない)けど、「急性心不全」にならないように予防するため、原因となる病気の治療を行うといったイメージでしょうか。
とにかく、「急性心不全」に陥ると予後(その後の寿命や健康)に大きく影響してしまいますので、なるべく慢性心不全、しかも初期の状態で病院へ行くことをおすすめします。
循環器学会 心不全ガイドラインより
長くなりましたので、今日は「心不全」で終わりたいと思います。
まとめ
「心不全」は、さまざまな心臓の病気が行き着く成れの果てです。
急激に起こることを「急性心不全」といい、非常に苦しい呼吸困難を主体とし、死に至るケースもあります。
気づかず徐々に進行する「慢性心不全」という状態もあり、やがて動いたらしんどい、息が切れるなどの症状が出現し、最終的には「急性心不全」として襲いかかってきます。
いずれの状態も原因となる心臓の病気を早期に発見し治療することで心不全に陥ることを防ぐことが肝要です。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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