前回の記事では、「コロナ禍のうつ病」について概要的なポイントを書きました。
抽象的で面白くはなかったと思います💦
今回は、実際、私の外来に来られた患者さんの例を提示したいと思います。もちろん、個人情報や個人を特定することは一切書きません。
症例提示
症例1
60歳台 男性
主訴:不安感、不眠
職業:経営者(製造業)
既往歴:高血圧
内服:高血圧治療薬
家族および少数の従業員で製造業を営んでいる経営者です。
高血圧以外に特に大きな疾患はありません。
現病歴
新型コロナウイルス感染症が現れる2020年までは経営も順調で特に大きな問題はありませんでした。
工場は小規模で、息子さんと外国人労働者などで構成されています。
ところが、コロナ禍によって状況は一変します。
工場への受注は、多少の減少はあったものの経営自体が傾くほどではありませんでしたが、外国人労働者が日本に来れなくなったため顕著な人手不足に陥ってしまいました。
人手不足となったため、少人数で働かざるを得ず、無理を強いることになるので歪みが生じてきました。余裕がなくなり、従業員間、特に家族経営ですので、家族間でのトラブルが多発するようになりました。
経営者として、父として、苦しい日々が続きますが、解決の糸口は見つかりません。それはそうで、コロナがもたらした環境変化が原因であるため、簡単には改善しようがないのです。
次第に酒量も増えていき、酒を飲まないと寝られないという状況が続きます。家族とのトラブルも絶え間なくなり、経営上の不安などで寝られなくなり、妻の進めで私の外来を受診されました。
診察と治療
受診時は、「お酒に頼らないと寝られないんです」「言い知れない不安で押しつぶされそうになる」などと不安と不眠を訴えられました。
置かれている状況や不安、不眠の状況をお聞きし、解決方法を提示します。
この患者さんの場合、「休む」という選択肢はなかなか現実的ではありません。ご自身が仕事を休むことは廃業に繋がるからです。幸い、入院が必要なレベルまでうつが進行している状況ではありませんでしたので、ご本人と相談し、仕事を続けながら薬物療法を選択することになりました。
前回のブログでもご紹介した「トリンテリックス」を処方し2週間後外来予約して帰宅としました。
二週間後
診察室に入ってくる時から前回とは少し違いました。顔を上げて診察に入って来られました。初診時は、背を曲げうつむき加減で診察室に入ってきた時と比較すると「よくなっているな」と思われました。
少しは寝られるようになってきました。酒の量も減らせるようになっています。
顔つきや声量、声の張りから以前と比較して良くなっているのがわかりました。
コロナの状況は改善せず人手不足は解消していないものの、「病院を受診するまで追い込まれていた」という事実を家族に知ってもらえるようになり、関係が改善してきたとのことでした。
第三者である医師に話せたことで、また、しっかりと病名がわかり、お薬を飲むことで気持ちが安定したとも語ってくれました。
経過まずまずと判断し、4週後に再診予約をとり帰宅となりました。
その後も大きなトラブルなく外来通院されています。
症例からわかること
- コロナ禍では依然と状況がさまざまに変化し、長期化している影響で、人々の生活に大きな影響を及ぼしています。
- 社会を取り巻く大きな変化であるので、自分自身では解決の糸口を見出せず、不安や不眠などうつを発症するケースは多いです。
- 病院に行くことで、第三者である医師に話すことで精神的に気持ちを落ち着かせることもできますし、薬物療法という選択肢、あるいは入院治療も考えられます。
- さらには、病院へ通院することで、追い込まれているという状況を周囲に認知させることもできます。結果として、周囲の理解を得ることができます。
一人で悩まずに病院にいくことで解決の糸口が見出せる可能性があります。
悩んでいる皆様の一助となれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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