精神科や心療内科が扱う病気〜春うつ病〜春に増える疾患:症例提示

「春うつ病」の症例です。

実際にあった症例をアレンジしていますし、個人が特定されないようにしています。

「春うつ病」ってこんな感じだよっていうニュアンスを捉えていただければそれでいいです。

それでは見ていきましょう。

目次

症例

20代女性(大学生)

家族構成:両親および姉と同居

成長発達に大きな問題なし。

その他、大きな病気や怪我なし。

現病歴です

中学校は成績上位で、進学校の公立高校に入学しました。その後も特に大きなトラブルなく卒業し、実家から通える範囲の公立の大学へ進学しました。

大学生活は新型コロナウイルスの影響で、対面授業よりも遠隔授業が多い時期もあったが、友人関係などに大きなトラブルもなく、飲食店でバイトなどもこなしていました。

大学2回生も終わりに近づき、2月ごろから就職活動の準備をするようになりました。就職活動のエントリーシートを準備中に自分が果たして社会にでて働いていけるようになるか不安に感じるようになってきました。

3月ごろになると、教職の資格も取得するための準備を検討したり、就職活動準備に没頭するようになりました。その頃から、極度の不眠、吐き気、肩こりなどが出現し思い詰めるような状態に陥りました。

3月中旬ごろには、見知らぬ人たちから「おまえは社会不適合者だ」と陰口を叩かれているような気持ちに襲われます。次第に、就職活動の準備が手につかなくなり、恐怖を感じるような状態となりました

ある時、手足を震わした状態で、「もう無理だ…」と両親に訴え何もできない状態となりました。精神科受診も検討してましたが、「自分はもうこの社会には不必要だ。いなくなった方がよいに決まっている。」と感じ、包丁を手に取り手首をざっくりと自ら切ってしまいました。

異変に気づいた両親は、すぐに119番し病院へ救急搬送されました。動脈まで到達していましたが、幸い命に別状はありませんでしたが、精神疾患による自傷行為のため私の病院に紹介され受診となりました。

診察時の様子です

診察時、ここがどこかわからない、何歳かもわからない、社会不適合者なのでこの世に存在する価値がないなどと錯乱した状態でした。

とても自分で何かを判断できる状態ではありません。声も聞き取れないような小声でした。

統合失調症にあるような思考化声(考えていることがそのまま声になって聴こえる)、思考吹入(考えが外から吹き込まれる)、思考奪取(考えが抜き取られ空っぽになる)、思考伝播(考えただけで周囲に伝わってしまう)、誰かに操られている(させられ体験)などの症状はなく、「季節性うつ=春うつ病」と診断しました。

不眠が持続し思考能力も低下、自傷行為を繰り返す可能性も考えられたため、両親の強い希望もあり入院で経過を見ることにしました

入院時の様子です

入院時よりうつ病治療薬を開始しその日から睡眠できるようになりました。翌日には、だいぶ落ち着いたためか希死念慮(死にたいという気持ち)はだいぶ薄れており、比較的落ち着いてきました。

お話をしながら精神の安定を図る精神療法と薬物治療を継続し、改善を認めていきました。

こわばっていた表情は穏やかになり、受け答えもしっかりしてきました。お薬の必要性も理解でき、何より大事なことですが、「もう自傷行為を絶対にしない」と約束し退院となりました。

考察です

春うつ病に限らず、うつ病になりやすい性格として、メランコリー親和型と呼ばれる性格傾向があります。 この性格は真面目で責任感が強く、几帳面で秩序を重んじる、周囲に気を使いすぎるなどの特徴があります。 このような性格の方は総じて仕事も出来て、周りからの評価も高く頼りにされます。

そういった一方で柔軟性に欠け、自責的であったり、一人で何でも抱え込もうとするためうつ病になりやすいといった傾向があると言われています。

この患者さんも両親に迷惑をかけたくないと小さいころから思っており、限界の限界まで苦しい姿を見せずに頑張っていたようです。だから、周りも気付きにくかったのだと思います。

うつ病の治療や予防について、よくネットなどでは、『まず、心身の休養がしっかりとれるように環境を整えることが大事』ですとあります。しかし、当の本人はそれができないんですよね。

できるだけ周りが気づいてあげるしかないのですが、これも難しい場合も多いです。「まさか、この人がうつ病になるなんて…でも、そういえば、そういう徴候があったかもしれない」と後から振り返れば気づきます。

それでも、少しでも異変に気づいたら、うつ度チェック 簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)などネットで簡易的にできますから、「うつの可能性が高い」となったら病院への受診をお勧めします。

医師など第三者に思いを打ち明けるだけで少し楽になったり、お薬で症状が軽減したりします。

今は昔と違って、精神科や心療内科への偏見はほぼありませんので安心してください。

大事に至る前に、このブログが一助になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

総合内科専門医と循環器専門医資格をもつ精神科医の備忘録です。
①医療のこと(循環器、精神科領域中心)
②子供の受験のこと(小学6年生 浜学園 公文)
③投資のこと(米国中心の投資について)
④時短家電のこと
⑤論文のこと(論文の読み方、書き方など)

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