【専門医がわかりやすく解説】狭心症の検査について

今回も心臓の病気として多くの人が患う「狭心症」について説明いたします。特に、検査についてです。

👇狭心症のまとめ記事です。こちらを読めば大体わかるようになっています。ぜひ参考にしていただければ幸いです。

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私は10年以上循環器専門医として診療を行なっています。

資格としては、

「循環器専門医」:心臓全般の専門的知識を有する医師

「心血管インターベンション治療学会専門医」:心臓や血管のカテーテル治療を専門的に行える医師

などの心臓や血管の病気を治療するエキスパートとしても働いております。

インターネットには「狭心症」に対する数多くのホームページがありますが、私の経験から患者さんが疑問に思う点などを踏まえながら、患者さん目線に立って説明していきたいと思います。

なお、ここでは「外来で可能な検査」について言及します。「入院が必要な検査」については別記事にします。

目次

狭心症の検査

まず「狭心症かな?」とおもったら、患者さんの多くは近くのクリニックや医院などの開業医に行くと思います。あるいは、小規模の病院も選択肢としてありますね。大きな病院はハードルが高いし、待ち時間も長いし、初診代も高いので最初の受診としては躊躇われますね。

ただ、不安定狭心症や心筋梗塞などの切羽詰まった状態であったり、救急車を呼ぶような状況であれば、ダイレクトに検査や治療まで完結できる大きな病院を受診することになると思います。心筋梗塞などの緊急を要する病気については、別で記事にしたいと思います。

最初のステップ

まずは、問診や診察をして検査を行うことになります。

心電図、採血検査、そのクリニックにエコー機器があれば心エコー図検査が一般的です。

ただ残念ながら、これらの検査では狭心症の診断には辿り着けません。あくまでも補助的な要素となります。安静時の心電図で狭心症を思わせるような所見があれば、かなり進行している狭心症の可能性があります。

循環器専門医がいるクリニックですと、運動負荷心電図を行うこともあります。「マスターダブル心電図」などがそれに当たります。階段昇降をしてもらってから心電図をとります。狭心症の多くは、運動時に心臓への負担がかかることから、運動直後の心電図で変化が生じることになりますので、運動負荷心電図はその変化を捉えることになります。ただこれも軽度の運動負荷になりますので、これで変化が生じる場合は重症の可能性があります。

クリニックレベルですと、検査はどれも補助的になりますので、結局は「問診」が大事になりますね。医者の話術が試されるわけです。丁寧に患者さんのお話を伺っていると、だいたい狭心症かそうじゃないかというのがわかってきます。とくにリスクファクターが大事です。高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などがあるかないかでだいぶ変わってきます。

クリニックの先生が「狭心症っぽいな」とか「狭心症が否定できないな」とか感じたら、高度な検査や治療まで完結できる大きな病院に紹介されることになります。

高度な検査

高度な検査から治療まで完結できる病院に紹介されるとさまざまな検査が提案されます。

心臓CT検査

心臓CT検査は心臓カテーテル検査に比べて苦痛が少なく、重篤な合併症も少ない低侵襲の検査で、心臓の病気を診断し、治療方針を決めるために有効な検査です。撮影時間は10分もかかりません

特に狭心症の診断においては有用で、器質的狭窄病変や冠動脈石灰化の検出だけでなく、プラークの性状評価が可能であり、また、どのような心臓の形をしているかなど立体的な解剖学的情報を得ることができます。

高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙といった動脈硬化の危険因子をお持ちの方、胸痛を自覚される方、心臓病の家族歴をお持ちの方には特にお勧めできる検査と言えます。

下の図のように冠動脈(心臓の血管)を詳細に描出することができ、どこに狭窄があるのかわかります。

心臓CTは非常に有用な検査ですが「できない人」や「難しい人」もいます。

閉所恐怖症:CTは狭いところに入る必要があります(MRIより狭くないです)
腎臓機能が悪い人:心臓CT検査で使用する造影剤が腎臓機能をさらに低下させる可能性があるため
造影剤アレルギーがある人:過去に造影剤でアレルギーがある人はできません
脈が早すぎる人:脈が早いとうまく撮影ができません。ただし、脈がゆっくりになるお薬を使って撮影できることがあります
息止めができない人:心臓CTでは10秒程度の息止めが必要です。息止めが難しい人は呼吸でブレてしまい正確な評価ができないことがあります。

担当医の医師と相談しながら心臓CT検査を受けるかどうかの選択が必要となります。

FFR-CT

最近では、FFR-CTという最新のソフトが登場しています。Heart Flow社が開発した心臓CTのソフトです。

ただの心臓CT検査では、心臓の血管が細くなっているかどうかはわかりますが、カテーテル治療などの手術が必要かどうかは明確にはわかりません。しかし、FFR-CTというソフトを使うと治療すべきかどうかスーパーコンピュターで解析され数値として算出されます

下の図の様に血管が色づけされ、治療が必要な血管は赤色として描出されます。

心臓の血管は、細いからといって全て治療すべきというわけではありません。人間の目は錯覚や過大評価あるいは過小評価しやすいものなので「見た目」だけでは判断できません。一見、治療が必要なほど細く見える血管でも治療が必要でない場合もあり得ます。それをFFR-CTはわかりやすく判断してくれます。オプションとしてできるので、心臓CTを2回撮る必要はありません。追加解析料金として、3割負担で3万円弱ほどかかります。

ただ、実施できる施設がかなり少ないことが問題です。CT検査を受ける前に「FFR-CTが可能ですか?」と聞いてみるといいでしょう。

心筋シンチ

心臓の血の流れの地図を作る検査です。血の流れが良いと赤や黄色になり、血の流れが悪いと青や緑色に表示されます。

微量の放射性物質で標識した薬剤を静脈に注射し、心筋の血流の様子などを評価することができます。

狭心症では運動前後の心臓の血流の評価が必要になるので、実際に運動してもらったり、薬をつかったりして心臓に負担をかけます。具体的には、自転車をこいで運動負荷をかけたり、点滴のお薬を使って負荷をかけたりすることで、より詳細に虚血の部位や範囲を評価できます。

下の図で「負荷直後」は運動や薬剤で負担をかけた後のシンチの画像、「再分布」というのは安静時のシンチの画像ということになります。負荷直後には赤矢印にあるように緑色〜青色に描出され血の流れが悪いことを示しています。再分布では血流が回復し、黄色〜赤色に戻っています。

心筋シンチですが、心臓CTとセットで行われることが多いです。心臓CTでは解剖学的な血管の構造がわかり狭窄部位の特定には有用ですが、その狭窄を治療すべきかどうかは心筋シンチで判断することになります。ちなみに、FFR-CTができれば心筋シンチは不要なことが多いです。費用は3割負担で3万円弱とFFR-CTと変わらないくらいです。

心筋シンチはどこの施設でもできるというわけではありません。FFR-CTよりもできる施設数は多いですが、心筋シンチが可能かどうか医師と相談してください。

心臓MRI(磁気共鳴画像撮影)

ほとんどの狭心症は心臓CTと心筋シンチで診断可能ですが、MRIの技術も進歩してきておりMRIでも診断可能となってきています。

CTやシンチのように放射線による被ばくを心配することもありません。造影剤を使わずに心臓の動きを解析し、心臓の栄養血管である冠動脈の撮影を行うことが可能です。

さらに、造影剤を使用すれば、心臓組織内の変化やダメージを検出し、より詳細な診断につなげることができます。ちなみに、心臓MRIの造影剤は“ガドリニウム系造影剤”であり、心臓CTなどで使用する“ヨード系造影剤”とは物質が異なり、比較的副作用が少ないと言われています。

ただ、心臓CTと比較すると解像度が悪く、まだ「ファーストチョイス」にはなっていません。

ガイドライン

心臓を専門とする医師は誰しもが「日本循環器学会(JCS)」という組織に属しています。

どの専門科の学会でも各々ガイドラインを出していることが多く、「狭心症」に対しても日本循環器学会からガイドラインが発表されています。数年ごとに改訂を繰り返しています。

https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Nakano.pdf

ガイドラインとは、「検査や治療の道標」的な存在です。多くのエビデンスから成り立っています。ただ、医療は日進月歩進んでいますので、必ずしもガイドラインが最新とは限りません。しかしながら、多くの医師はガイドラインを守りながら治療を進めていると思います。

この最新のガイドライン(2022)でも下図のように、

まずCT(CCTA)をとって、心筋シンチ(負荷イメージング)あるいはFFR-CTを支持しています。

担当医師が「私の病院では、負荷イメージング(心筋シンチ)やFFR-CTはできません。」というような施設での治療は、私は個人的におすすめできません。ガイドラインで推奨しているように、負荷イメージングやFFR-CTができる施設での精査や治療がベターだと思います。

まとめ

今回は、狭心症に必要な「検査」について説明しました。

①まずはクリニックを受診。問診や簡単な検査などから「高度な検査」が必要であれば専門施設へ紹介してもらう。

②専門施設では、「心臓CT」と「心筋シンチ」がスタンダード。FFR-CTや心臓MRIは施設の状況に応じて検査してもらう。

という流れになります。

なお、ここでは「外来で可能な検査」について言及しました。「入院が必要な検査」については後述します。

参考になれば幸いです。

次回は「狭心症の治療」について説明したいと思います。

最後までお読み頂きありがとうございます。

👇次は「狭心症の治療について」です。ぜひ参考にしてください。

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(参考)

冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン(2013年改訂版)

https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2013_ogawah_h.pdf

慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)

https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_yamagishi_tamaki.pdf

2022 年 JCS ガイドライン フォーカスアップデート版 安定冠動脈疾患の診断と治療

https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Nakano.pdf

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この記事を書いた人

総合内科専門医と循環器専門医資格をもつ精神科医の備忘録です。
①医療のこと(循環器、精神科領域中心)
②子供の受験のこと(小学6年生 浜学園 公文)
③投資のこと(米国中心の投資について)
④時短家電のこと
⑤論文のこと(論文の読み方、書き方など)

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