心臓の病気として多くの人が患う「心房細動」について説明いたします。
今回は『心房細動のアブレーション治療の合併症』についてです。
心房細動を患ったといわれる有名人は、小渕恵三元首相、プロ野球元監督の長嶋茂雄さん、サッカー日本代表元監督のイビチャ・オシムさんなど数多くおられます。
かなり厳重に健康管理をされていた人たちでも心房細動に知らず知らずのうちに患ってしまい、最終的に心房細動が原因で脳梗塞を起こしてしまいました。
ただ、知っておくだけでも今後の人生を大きく変える可能性があります。ご自身のためにもなりますし、ご家族のためにもなるかもしれません。
👇心房細動とは一体どういう病気かは以下の記事を参照ください!
👇アブレーションとは何かについては以下の記事を参照ください!
私は10年以上循環器専門医として診療を行なっています。
インターネットには「心房細動」に対する数多くのホームページがありますが、私の経験から患者さんが疑問に思う点などを踏まえながら、患者さん目線に立って説明していきたいと思います。
目次
心房細動の合併症とは
心房細動のアブレーションを勧められてるんじゃが、合併症が怖いんよ。
心房細動のアブレーションは比較的安全な手術の一つです。
それでも少なからず合併症があるのは事実です。
合併症の説明は聞かずにアブレーションをしてくれんかのぉ。
医師は手術の合併症をきちんと説明し、患者さんにアブレーションを希望するかどうか決めてもらうことになっています。
それぞれ一緒に見ていきましょう!
アブレーション治療では、まれに重篤な合併症が起こることがあります。合併症とは、アブレーションに伴う事故というイメージで捉えてください。どんなに熟練した術者でも合併症は起こり得ます。
合併症が起こらないよう、また、合併症が起きても適切に対処できるよう、主治医と治療に携わる医療スタッフは、治療中や治療後の経過観察で様々な注意をしています。
不幸にも合併症が起こってもそれぞれに対して対処法はあり、医師はそれらを理解し常に準備万端でアブレーションに臨みます。
どんな合併症があるか見てみましょう。
血栓塞栓症
主として、脳梗塞のことを言います。
心房細動は脳梗塞を起こす病気と説明いたしました。心臓の中で血が澱み、血栓ができ、それが脳に飛んで脳梗塞を起こします。
👇脳梗塞など心房細動の症状についてをご参考ください
経食道心エコー検査で血栓がないことを確認してからアブレーション治療を行うのですが、アブレーション治療を行った部分に血栓が発生したり、アブレーション治療の際に発生した気泡が血管をふさいでしまったりすることで起こります。気泡で脳梗塞が起こることを「空気塞栓」と読んでいます。
血栓塞栓症が起こらないように血液の凝固を防ぐ薬を投与したり、気泡が発生しないように注意したりしながら、アブレーションを行います。
脳梗塞は主として症状がない場合が多いと言われています。アブレーション後に試験的にMRIで検査したら、症状がないのに小さな脳梗塞を起こしていたというケースが少なからずあったと報告されています。それを無症候性脳梗塞と呼び、2〜15%程度起こると言われています。
激烈な脳梗塞が起こると、術後に目が覚めない、麻痺がある、めまいが止まらないなど症状がでますので、すぐにわかりそれに対する対応が必要となります。ここまでの症状が起こるのは非常に稀です。ただし、術後にめまい、嘔吐、麻痺などの症状がでたらすぐに看護師や医師にお知らせください。
血栓塞栓症
・アブレーション中に血の塊(血栓)や空気の塊が脳に飛ぶことが稀にある。
・空気塞栓(カテーテル操作で生じた空気が脳に飛んで脳梗塞などになること):1%未満
・無症候性脳梗塞(MRIなどでしかわからない症状がない脳梗塞になること):2~15%
心タンポナーデ(心筋穿孔に伴う)
アブレーション治療中のカテーテル操作の際に、心臓の筋肉や血管が傷ついてしまうことがあります。
結果として、心臓の周りに血液が漏れて出て、漏れ出た血液により心臓の動きが邪魔され、体中に血液を送り出せなくなる症状です。
アブレーションを中断あるいは中止して、
心嚢穿刺(しんのうせんし)と呼ばれる治療が必要になります。心嚢穿刺とは、
心臓の周りにたまった血液を除去することをいいます。
心嚢穿刺でも改善しない場合は、
心タンポナーデは死に至りますので、
外科的手術が必要になることもあります。
心タンポナーデ
・心臓の周りに血液が漏れ出て、その血液により心臓が圧迫され動けなくなること。
・死に至る可能性があるのでアブレーションを中止し緊急処置が必要となる。
・0.2~5%で起こる。
肺静脈狭窄
心房細動のアブレーションは主には肺静脈の入り口を治療します。しかし、アブレーション治療で生じるエネルギーにより、肺静脈が狭くなってしまうことがあり、それを「肺静脈狭窄」と呼んでいます。
発生すると、呼吸困難や胸痛などの症状がでます。肺静脈狭窄を予防するために、肺静脈自体ではなく、肺静脈の入り口周囲の心房筋を線状に繋がるように広範囲にアブレーションしています。
海外の報告によると、アブレーション後の肺静脈狭窄の頻度の高い症状として、息切れ(67%)、咳(45%)、倦怠感(45%)、そして運動耐容能の低下(45%)がみられたと報告されています。また、27%が喀血(血を吐くこと)が起こっていました(Fender EA, et al. Circulation. 2016; 134: 1812-1821.)。
そのような症状がでたら、CTで検査で本当に肺静脈狭窄かどうか診断することになります。
肺静脈狭窄
・心房細動のアブレーションで稀に起こる:1%未満
・退院後に、息切れ、咳、喀血などの症状が出現したら主治医に相談を。
心房食道瘻(しんぼうしょくどうろう)
心房と食道は近い距離にあり、心房をアブレーションしているときの熱が食道に伝わり、心房と食道に通じる穴(=瘻)ができることがあります。その発生時期は術直後ではなく、術後2~4週間程度で発熱、胸痛、意識障害、ショックなどの症状を呈することが多いです。
血が食道にあふれ出ることになるので、発症したら致命的で、致死率は70~80%と高くなります。ですから、アブレーション後に飲み込み時の違和感や痛み、あるいは腹部膨満感を感じる場合は病院に連絡するようお願いします。
心房食道瘻
アブレーションの熱により心房から食道に通じる穴(=瘻)ができてしまうこと。
術後2〜4週間後に発熱、胸痛、意識障害やショックとなる。
起こったら致命的なので、飲み込みい時の違和感や痛みを感じたら病院に連絡を。
頻度:0.02~0.11%
横隔膜神経麻痺
横隔神経とは横隔膜を動かしたりする神経です。
横隔膜は息を吸ったり吐いたりする呼吸運動に際してとても重要な筋肉であるため、横隔膜が麻痺をすると正常の呼吸活動が阻害されてしまいます。
そのため、息苦しくなり、程度が強い場合には自分自身の意志で呼吸することができなくなってしまうこともあります。ただし、多くの場合は無症状のことが多いようです。
アブレーション治療では、肺静脈の近くにある横隔膜神経がアブレーション治療で発生するエネルギーで傷つき、横隔膜が一時的に動かなくなることがあります。
横隔膜神経麻痺
アブレーションの熱で横隔膜神経を障害するために起こる。
多くは無症状だが、呼吸時の苦しさを感じることがある。
頻度:0~0.4%
カテーテル挿入部から出血
カテーテルは2~4mmの細い管で治療が終わった後にすべて抜き去ります。多くの場合、数時間で出血しなくなリンスが、まれに止血しにくく腫れあがることがあります。
出血がある場合は、圧迫して安静にするなどの対応を行います。外科的処置が必要となることがときどきあります。
死亡
アブレーション治療は、患者さんにとって外科的手術と比べたら侵襲度は低いといえ、手術には変わりないので、ごくまれに「死亡」のリスクはあります。
死亡する確率は非常に稀で0.1~0.4%未満と言われています。
合併症が起こらない工夫
合併症リスクを少しでも軽減・予防するため、心房 細動アブレーションの現場では、一般的な血圧モニタリングなどの方法に加えて様々な工夫がなされています。同時に、アブレー ションを支援する診療機器の進歩も目覚ましく、安全性向上に貢 献しています。
合併症の中でも頻度の高い心タンポナーデですが、心腔内エコーという特殊な機器を導入し心タンポナーデが起こらないような工夫をしています。また、心タンポナーデの早期診断のため、アブレーション中に心腔内エコーを用いて常に心タンポナーデが起こらないかモニタリングをしています。
また、食道や神経を障害しないために食道温度をアブレーション中に測定しています。食道温度が食道の温度が39℃になれば、通電を一時中止しするなどして神経障害の予防に努めています。
学会で情報共有
それぞれの分野ごとに学会と呼ばれる医師の組織があり、そこで情報共有をし合併症が起こらないような工夫もされています。
ガイドラインでは、合併症の予防や対応、留意点などまとめられています。
また、重篤な合併症は学会に報告義務があるものもあり、そこで集約され注意喚起が流されることもあります。
このように、日々の研鑽、情報共有や機器の進歩などにより合併症を減らす努力を日々行っています。
なるほど!合併症はゼロにはできないが、医師の皆さんも起こらないように工夫されとるんじゃね。
そうなんです!アブレーション前にもしっかり検査をしてから安心して治療を受けていただけるように最新の注意もしています!
怖いのは怖いが、しっかり準備や工夫をこらしてもらっているから少しは安心したんじゃ。説明をきっちり聞くのも大事じゃな。
まとめ
カテーテルアブレーションに伴う一般的な合併症としては、穿刺部の出血を含む血管損傷、感染症、臓器損傷(肺、心臓)、脳梗塞があります。合併症の頻度は不整脈の種類、患者さんの状態や基礎疾患により異なりますが、どれも稀な確率です。
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