心臓の病気として多くの人が患う「心房細動」について説明いたします。
心房細動を患ったといわれる有名人は、小渕恵三元首相、プロ野球元監督の長嶋茂雄さん、サッカー日本代表元監督のイビチャ・オシムさんなど数多くおられます。
かなり厳重に健康管理をされていた人たちでも心房細動に知らず知らずのうちに患ってしまい、最終的に心房細動が原因で脳梗塞を起こしてしまいました。
私は10年以上循環器専門医として診療を行なっています。
資格としては、
「循環器専門医」:心臓全般の専門的知識を有する医師
「心血管インターベンション治療学会専門医」:心臓や血管のカテーテル治療を専門的に行える医師
などの心臓や血管の病気を治療するエキスパートとしても働いております。
インターネットには「心房細動」に対する数多くのホームページがありますが、私の経験から患者さんが疑問に思う点などを踏まえながら、患者さん目線に立って説明していきたいと思います。
心房細動とはなんぞ?
まず心房細動を含む「不整脈」の説明をします。
不整脈
正常な心臓は、心臓内で発生する電気信号によって規則正しい収縮と拡張(拍動)を繰り返しています。
👇心臓の仕組みについては過去記事を参考にしてください。
筋肉はすべて電気の信号が流れることによって動いているんです。
肩こりの時に電気を流して肩こりをほぐす機器「低周波治療器」があると思います。
それをつけると「ぴくっぴくっ」と筋肉が動きます。これは電気が流れることによって筋肉が動くんですよね。
心臓は特別な電気が流れるシステムが心臓の筋肉内に配備されており、自動的に電気が規則正しく流れることで、心臓の筋肉は収縮と拡張を繰り返し、体中に血液を送り出すことができるんです。
図のように、心臓の筋肉の中には「電線」が張り巡らされていて、それらに電気が流れることで筋肉は動くことができます。
ちなみに、心臓は大体一日24時間で約10万回拍動しています。一日10万回も休むことなく自動で動いてくれるおかげで私たちは活動することができるんです。
この電気が流れるシステムが崩れると、心臓の収縮と拡張が不規則になります。
この状態を「不整脈」といいます。
つまりは、心臓の電気システムの異常により「不整脈」が起こるんです。
電気システムのあらゆる異常を「不整脈」と呼んでいるんですが、無視していいものから死に直結するものまでピンキリです。
心房細動は数ある不整脈の中でも治療が必ず必要な「悪い」部類の不整脈になります。
「悪い」とは、具体的には、心房細動は心不全を引き起こしたり、脳梗塞を起こしたり、ひどい場合は「死に直結する」可能性すらあります。
ですので、「心房細動」はいろんなところで取り上げられやすい不整脈なんです。
心房細動とは
心房細動とは、上の動画のように心房と呼ばれる心臓内の部屋が小刻みに震えて痙攣し、うまくはたらかなくなってしまう不整脈のことをいいます。
正常な電気の仕組みでは、心臓の電気の流れは1分間に60~100回、規則正しく起こります。その電気の流れにあわせて心臓の筋肉は規則正しく収縮、拡張を繰り返しています。
一方、心房細動では、心臓の電気の流れが1分間に400~600回も不規則に起こっています。心房という心臓の4つある部屋の一つで不規則な電気の流れが数多くおこるので、まるで「心房が震えている」ように見えます。
だから「心房細動」という名前がつきました。
症状については別途詳細を記載しますが、心房細動にかかると、動悸、めまい、脱力感、胸の不快感、息苦しさといった症状が出ることがありますが、その一方で自覚症状のない方も多くいらっしゃる病気です。
冒頭にも書きましたが、心房細動を患ったといわれる有名人は、小渕恵三元首相、プロ野球元監督の長嶋茂雄さん、サッカー日本代表元監督のイビチャ・オシムさんなどなど数多くおられます。なお、紹介した方々は、脳梗塞を突然発症した有名人です。脳梗塞になって初めて、心房細動になっていたことが分かったケースだと思います。だから心房細動はやっかいなんです。
数ある不整脈の中でもタチの悪い不整脈の一つ。
脈が不規則になり、動悸や眩暈を起こすことがある。ただし、無症状の人もいる。
脳梗塞や心不全を起こす可能性があるので、かならず治療を受ける必要がある。
心房細動の原因
心房細動はストレス・飲酒・喫煙・過労・睡眠不足・脱水・加齢などが誘因となり発症すると言われています。
健康な方でも、アルコールやカフェインの過剰摂取、精神的ストレス、睡眠不⾜などがあるときに心房細動が発⽣しやすくなるといわれています。そのため、心房細動を予防するには、これらの要因をなるべく減らすようにすることが大切です。
さらに、心臓弁膜症・心筋症・虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)などの基礎疾患がある方は、心臓に負担がかかり心房細動を併発する可能性が高まります。
また、甲状腺機能亢進症などの心疾患以外の病気に併発することもあります。
一方、上記のような基礎疾患がなく心房細動を発症した場合を孤立性心房細動と呼んでいます。
心房細動を疑う患者さんが来院されたら、いろんな原因がありますので、心電図以外にもさまざまな検査を行うことになります。
私の印象では、心臓に基礎疾患がない患者さんで心房細動を発症した場合、「飲酒」がひとつの大きな原因かなと思う患者さんが多いです。
平均2合(約4ドリンク)以上の飲酒をすると、心房細動の罹患リスクが約2倍になると報告されています(*)。
やはり「飲みすぎ」は何でもよくはないですね。とりわけ、心房細動は飲酒をしているときに発症することも少なくはないです。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)と呼ばれる病気も心房細動を起こしうることが知られています。心房細動の患者さんが来院されたら、甲状腺ホルモンと呼ばれるものを測定します。採血ですぐわかります。
海外のいくつかの研究では、年々心房細動の患者数が増えていると報告されており、日本でも同じように増えていくと考えられています。
ストレス、飲酒、喫煙、過労、加齢などが誘因となる。
健康な方でも、アルコールやカフェインの過剰摂取、精神的ストレス、睡眠不⾜などがあるときに心房細動が発⽣しやすくなる。
心臓弁膜症・心筋症・虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)などの基礎疾患、甲状腺機能亢進症も原因となる。
まとめ
心房細動は心不全だけでなく、脳梗塞を起こしうる非常に厄介な不整脈です。
誘因として、飲酒、喫煙、ストレス、睡眠不足、過労などが挙げられます。
また、心筋症、心筋梗塞、弁膜症などの心臓疾患や甲状腺機能亢進症も原因となります。
症状として動悸や眩暈などを起こしますが、症状がないこともあります。
症状については、次に説明します。
最後までお読みいただきありがとうございました。
参考にしていただき、病気の理解や予防に役立てれば幸いです。
<参考文献>
2021 年 JCS / JHRS ガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈非薬物治療
(*)Eur Heart J 2015; 36: 939-945
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