心臓の病気として多くの人が患う「心筋梗塞」の症状について説明いたします。
私は10年以上循環器専門医として診療を行なっています。
資格としては、
「循環器専門医」:心臓全般の専門的知識を有する医師
「心血管インターベンション治療学会専門医」:心臓や血管のカテーテル治療を専門的に行える医師
などの心臓や血管の病気を治療するエキスパートとしても働いております。
インターネットには「心筋梗塞」に対する数多くのホームページがありますが、私の経験から患者さんが疑問に思う点などを踏まえながら、患者さん目線に立って説明していきたいと思います。
👇心筋梗塞のまとめを記載した記事です。これを読めば心筋梗塞についてはおおまかにご理解いただけると思います。ぜひ参考ください。
👇心筋梗塞に似たような病気で「狭心症」がありますが、以前の記事で説明していますので参照ください
急性心筋梗塞の症状について
発症場所
自宅が 66.7%と全体の約2/3です。私個人のイメージでは、外出している人の方が多い印象でしたが、実際は自宅の方が多いんですね。
何をしているときに発症するのか
睡眠中: 14.2%,食事中:12.3 %,飲酒中 : 7.4%,安静時:5.6%,排便・排尿中:4.6% です。
睡眠中に起こっているのが一番多いのは意外でした。寝ているときに胸が痛くて目が覚めましたと言って救急車で運ばれてくる患者さんもいましたが、そこまで多い印象はありませんでした。
発症時の症状
胸痛や胸部絞扼感(締め付けられるような痛み)が70~75%、呼吸困難感が10~12%、嘔吐が2~10%、失神が2~5%でした。
「嘔吐」も意外に多いんです!
「嘔吐なのに心電図をとられた!お金稼ぎだ!」っておっしゃる患者さんがいるかもしれませんが、「嘔吐」で心電図をとるのは「不要な検査でお金稼ぎではなく、心筋梗塞を見逃さないようにしている」だけなんです。
上記のような典型的な症状を示さない非典型例は年齢とともに増加します。すなわち、高齢になるほど、症状がはっきりしません。
「しんどい…」とだけいうご高齢の患者さんに心電図検査をすると…「心筋梗塞」ということはまれではありません。
胸痛について
胸痛は、前胸部や胸骨後部の重苦しさ、圧迫感、絞扼感(こうやくかん:締め付けられるような痛み)、息がつまる感じ、焼け付くような感じと表現されることが多いです。単に不快感として訴えられることもあります。
顎、頸部、肩、心窩部、背部、腕への広がるような感じを伴ったり、ときに胸部症状を伴わずこれらの部位にだけ症状が限局することもあるため注意が必要です。
なお、刺されるような痛みやチクチクする痛み、触って痛む場合は狭心痛ではないことが多く。また呼吸や咳、体位変換の影響は受けないとされます。
ときどき「この辺りがちくちくするんです!」と指で胸を指し示しながら訴える患者さんがいますが、心筋梗塞ではあまりみられない症状なので心筋梗塞ではない可能性が高まります。
心筋梗塞のときに症状は、「限局的」ではなく、「全体的に」などわりと広範囲に不快感を訴えることが多いです。
これらの症状は 20 分以上で数時間に及ぶことが多いです。
高齢者、糖尿病および女性の患者での症状
胸部症状など典型的な症状を示さないことが時々見受けられます。
さらに高齢者では息切れを訴えたり、全身倦怠感、食欲不振 、失神や意識レベルの低下などが唯一の症状のこともあるので注意が必要です。
・これらの症状は 20 分以上で数時間に及ぶことが多い。
・高齢者、糖尿病および女性の患者では、典型的な症状を示さないことがあり、全身倦怠感、食欲不振 、失神や意識レベルの低下などが唯一の症状のこともあるので注意が必要。
どれくらいの人が心筋梗塞になっているか
2015年人口動態統計(厚生労働省)の調査・統計のデータですが、「急性心筋梗塞」は3万7,222人(男性2万1,137人、女性1万6,085人)と少なくありません。
そして、急性心筋梗塞患者の14%は病院に搬送される前に心停止 (心臓が止まってしまうこと)を起こしています。
急性心筋梗塞による急性期死亡率(発症から30日以内の院内死亡率)は6~7%です。すなわち、年間で2,000人が急性心筋梗塞で命を落としています。
症状が出たときにどうすればよいか
急性心筋梗塞が疑われる症状が出現した場合は、ただちに119 番通報して救急車を要請する必要があります。
心筋梗塞発症直後は突然死のリスクがあるため、ご自身で病院を探して受診するよりは救急車を呼ぶ方が安全です。
我々医療者は、胸痛などの心筋梗塞が疑われる症状や発症後早期の救急車要請の重要性について、市民のみなさんやや患者さんに啓発することが重要であると言われています。私がこのブログを書いている大きな理由の一つです。
狭心症でニトロを持っている場合
狭心症と言われニトロを持っておくように言われている患者さんが心筋梗塞を発症することもよくあります。ニトロとはニトロペンやミオコールスプレーなどのニトログリセリンと呼ばれるお薬で、症状を和らげる効果があります。
ニトログリセリンを保有している患者さんは、症状が治まるまでニトログリセリンを3~5分おきに合計 3 回まで使用してよいです。ニトログリセリン 1 錠舌下後または ミオコールスプレー1 回噴霧後も症状が強く軽減しない場合は、ただちに救急車を要請をしてください。
躊躇わずに救急車を!
「はずかしい」とか「近所迷惑になる」とか躊躇っているとすごく損をします!もっとしょうもないことで救急車を呼んでいる人なんてたくさんいるんですから、10分以上持続する胸痛など耐え難い痛みが出現したら、遠慮せずに救急車を呼んでください。
症状のまとめ
・これらの症状は 20 分以上で数時間に及ぶことが多い。
・高齢者、糖尿病および女性の患者では、典型的な症状を示さないことがあり、全身倦怠感、食欲不振 、失神や意識レベルの低下などが唯一の症状のこともあるので注意が必要。
・症状がでたら、遠慮せずに遠慮せずに救急車を呼んでください!
・心筋梗塞発症直後は突然死のリスクがあるため、ご自身で病院を探して受診するよりは救急車を呼ぶ方が安全。
もちろん、これらは、まる覚えしなくていいです。頭の片隅に置いといていただき、万が一、ご自身、ご家族や友人など大切な人が急性心筋梗塞を発症したかもしれないときにお役立ていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次は心筋梗塞の検査やカテーテル治療についてです。ぜひ参考にしてください。
⭐️循環器学会:急性冠症候群ガイドライン(2018 年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_kimura.pdf
⭐️循環器学会:虚血性心疾患の一次予防ガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2012_shimamoto_h.pdf
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