今回も心臓の病気として多くの人が患う「狭心症」について説明いたします。今回は、特に”どこの病院で治療をうけたらいいんですか?”についてです。
ここでは、緊急を要さない「安定狭心症」の治療について説明します。緊急を要する「不安定狭心症」や「心筋梗塞」の治療については別で扱います。「安定狭心症」と「緊急を要する不安定狭心症と心筋梗塞」は全く別物なので。
今回のテーマは狭心症になったら、あるいは、狭心症になったかもしれないとおもったら、どこで治療を受けたらいいのか?、どこでも同じなのか?という聞きたいけどどこにも載っていない、誰も教えてくれないようなことを説明します。
👇狭心症のまとめ記事です。こちらを読めば大体わかるようになっています。ぜひ参考にしていただければ幸いです。
私は10年以上循環器専門医として診療を行なっています。
資格としては、
「循環器専門医」:心臓全般の専門的知識を有する医師
「心血管インターベンション治療学会専門医」:心臓や血管のカテーテル治療を専門的に行える医師
などの心臓や血管の病気を治療するエキスパートとしても働いております。
インターネットには「狭心症」に対する数多くのホームページがありますが、私の経験から患者さんが疑問に思う点などを踏まえながら、患者さん目線に立って説明していきたいと思います。
病院や医師との出会いは運的要素が強い
「狭心症」に限らず、どんな病気であれ「いい病院やいい医師に出会えるかどうか」は運的な要素が強いと言えます。それは、誰しもが感じていることでしょう。「いい病院」や「いい医師」は患者さんの主観によるものが強いので、「いい」とは、すなわち、「自分に合っている病院や医師」ということになります。
住んでいる場所、時期にも大きく左右されますし、いくら有名な病院に行ったとしても、自分の担当医が自分に合う医師かどうか運的要素が強いです。
米国などでは自由診療ですので、標準的な価格は決まっていますが術者によって値段は違うでしょう。日本は国民皆保険のおかげで、医療費は米国と比べて非常に安価ですが、医師の選別はなかなか自由にはできません。中にはドクターショッピングされている方もおられますが、大半の患者さんは、クリニックから紹介された病院で治療を受けることが多いと思います。
ただ「狭心症」については、お勧めできる病院の指標はあります。これは私の個人的な意見ですので、参考にするかどうかはご自身の責任でお願いします。
設備の重要性
・医師の数は多いほどよい。少ないとガラパゴス化する可能性がある。多いとお互い監視しあえるので、びっくり仰天な治療ができにくい。
心筋シンチあるいはFFR-CTは必須
前回までの記事でたくさん出てきていますが、設備として「心筋シンチ」あるいは「FFR-CT」がないと、心臓カテーテル検査や治療をすべきかどうか判断が難しくなります。
心筋シンチやFFR-CTに関しては、過去記事で説明しているので参考にしてください。
https://www.cardiology-psychologist.com/what-is-cardiology-angina-002/
この最新のガイドライン(2022)でも下図のように、
まずCT(CCTA)をとって、心筋シンチ(負荷イメージング)あるいはFFR-CTを支持しています。
担当医師が「私の病院では、負荷イメージング(心筋シンチ)やFFR-CTはできません。」というような施設での治療は、私は個人的におすすめできません。ガイドラインで推奨しているように、負荷イメージングやFFR-CTができる施設での精査や治療がベターだと思います。
心筋シンチはなく、FFR-CTができないが心臓CTはある病院でCT検査を受けてしまうと、狭窄があったら、すぐにカテーテル検査をお勧めされるケースが出てきてしまいます。
ガイドラインが推奨する薬物治療を試したりすることや、心筋シンチやFFR-CTをすっ飛ばすことになってしまいますね。
カテーテル検査を受けてしまうと、そのまま狭くなっているところを治療しましょうという流れになることも少なくはないと思います。
医師の中には、「FFR」はカテーテルでもできるんだ!と怒る人もいるかもしれません。実際、カテーテル検査でFFR-CTと同じようなFFRという検査をできるんです。ですが、患者さんからしたら、同じ検査であるならば、痛くないし危険が少ないCTでのFFRを望みますよね。私だったら間違いなくカテーテルでのFFRではなく、CTでのFFRを望みますね。
ただ、中には、心筋シンチでも、FFR-CTでも判断がつかない、さらに薬物治療でも症状が改善しないというケースは心臓カテーテル検査を受けるしかありません。そこは、仕方ないケースです。
医師の人数は多い方がいい
少数精鋭でもすごい病院はあるとおもいますが、一般的に医師の数は多い方がいいと思います。
・他の医師の目があるので、トンチンカンな治療がしにくい、できない。
・ガラパゴス化しにくい。
・困難な症例でもいろいろな意見や治療方法など意見が出てきやすい
心臓は一分一秒を争う臓器ですので、その分人手がたくさん入りますし、時間も精神力も体力も消耗し疲弊します。スーパーマン的な医師もいますが、いつかは疲弊して燃え尽きちゃいますし、やはりマンパワーには勝てません。夜間も呼び出しが多いので、人数が多いとカバーしあえます。
私が若手だった頃は、臨床研修制度が変わった時期でしたので、どこも医師不足でした。その結果、時間外が月に150〜200時間、当直明けも夜間呼び出しされても次の日は予定通りの手術や外来というハードな状況でした😢 しかも残業代は30時間までしかでないという搾取に搾取をされまくっていた暗黒時代です。ほかに人もいないし、自分がやらないと解決しませんでしたので、やりがいだけを支えに乗り切っているような環境でした。医師の人数がもっといれば…とおもったものです。
医師数はホームページで確認できますので、行く前に見てみるのも良いでしょう。
医師が少ない施設だと、「俺のカテーテル」という独自の文化ができかねません。看護師や周りのスタッフも他と比較ができないので、「俺のカテーテル」が大丈夫なのかそうでないのか判断できない状態になります。医師が多いと、明らかにおかしな治療は咎められたり止められたりするので、なかなか「唯我独尊」とはなりにくいですね。中にはいないとは言えませんが。
想定外のことが起こった時に、医師の数が多いと様々な意見が出て窮地を救ってくれたり、自分が知らない治療方法などを教えてくれたりするケースが多くなると思います。場合によっては、まとまりにくいとも言えるかもしれませんが、さまざまな意見が出ることは良い点だと思います。
手術数でわかるいい病院ランキングを活かす
「手術数でわかるいい病院」という本が毎年、朝日新聞出版から出版されています。似たような内容を別の雑誌でも出版されていると思います。
2017年の記事は無料で見れるのでそれを参考にしてみます。
上図のように、全国や地方別の
「順位」→数が多いほど順位が高い
「治療数」→安定狭心症と、緊急カテーテル治療が必要な不安定狭心症と心筋梗塞を合わせた数
「緊急」→不安定狭心症と心筋梗塞に対して緊急カテーテル治療を行った数
「冠動脈バイパス術」→狭心症や心筋梗塞に対してカテーテルではなくバイパス手術をおこなった数
「TAVI」→大動脈弁狭窄症という弁膜症に対してカテーテルで治した数(狭心症と関係はない)
「常勤医師数」→その施設に所属する心臓を専門とする医師数
「主な医師名」→代表となる医師名
がそれぞれ公表されます。これは、出版社から案内が来て自己申告で答えていました。
いい病院か見分けるポイント
単純に、「緊急」を「治療数」で割った数値ということになります。
緊急というのは、急性心筋梗塞や不安定狭心症などに対しての緊急カテーテル治療を指し、一般的にできるだけ早く(6時間以内)、カテーテル治療を行うべきとされていてます。すなわち、緊急の症例数は、絶対にカテーテル治療が必要だった症例の数ということになります。
一方で、「治療数」というのは、安定狭心症に対してのカテーテル治療の症例数と緊急の症例数を合わせた数ということになります。
2022年のガイドラインでもあったように、大部分の安定狭心症はまずは薬物治療をチョイスすることになっています。ですので、「緊急」は少ないのに、「治療数」が多い病院は、ちゃんとガイドラインを順守しているのか?とかちゃんと検査をしているのか?とか治療数稼ぎでやっていないのか?などの疑念が生まれてしまいます。
米国では、安定狭心症に対するカテーテル治療が適切に行われているかどうか調査され、適応を厳格にするようお達しがありました。その結果、2009年から2014年の全米766病院、260万例のデータを解析すると、安定狭心症に対するカテーテル治療の不適切施行の割合は、2010年が26%だったのに対して、2014年には13%に縮小しました(*)。
つまり、安定狭心症に対するカテーテル治療はガイドラインを遵守すればするほど、緊急の割合は高くなるはずなんです。
「緊急」を「治療数」で割った数値が30%以上だと、かなり厳格に適応を守っている、ガイドラインを遵守している病院という印象を持っています。少なくとも20%前後は欲しいですね。これらはあくまでも私個人の見解で医師によって異なると思います(ただ、医師の中では昔から言われている数字だと思います)。
ただ単に、症例数が多いからいい病院というのは成り立たないとは思います。
まとめ
いい病院やいい医師に巡りあるのは運的な要素が高いのは否めません。
ただ、安定狭心症は緊急を要する心筋梗塞とは違って「時間的な余裕」があります。
病院が自分と合っているかなど考える時間はあるので、納得する治療を受けるべきだと思います。
・医師の数が多い
・カテーテル治療の総数に対する「緊急」の割合が高い
医師向けのサイトや文献解説にはこれらの内容を書いた記事や論文が見受けられますが、患者さんにはチンプンカンプンだと思います。
患者さん向けに解説した、これらのポイントはほとんどどこのサイトにも載っていません。
私の意見が100%正しいわけではありませんが、皆さんがよりよい治療を主体的に受けていただくためにお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
コメント